オタクな就職活動



とりあえず、ミリタリーオタクを休止し(当時は廃業したと信じていたが)、体育会にも入って肉体改造も行いさらに彼女も出来たりと個人的には過去と決別を遂げて変身したと自称していて僕だが、ついに就職活動の時期を迎えるに至った。入学当時の高い志(歴史学者になりたいなと漠然と思っていたが・・・)はどこへやら。

さて、どーしようかなとあれこれ日経新聞を見ながら考えてみたが、先見性も特にない僕のことだからまずは好きなもんから受けてみるかと考えた。
「mont-bell」や「山と渓谷」社を受けたわけではない。なんと川崎重工業、三菱重工業、石川島播磨工業である。重厚長大産業!!!理由はいうとミリオタな皆さんならもうお分かりのはず。軍需産業なんだな、これが。

しかし当時は超氷河期。経済学部ではない文系のなんじゃそりゃといわれる学部に所属した僕には圧倒的に不利だった。面接でも落とされまくり。まともに進んだのは三菱くらいだったが、ここはわが大学は経済学部しか採用しないとの噂どおり、2次面談で落とされた。やれやれ。こうしてせっかくの逸材はこうして他の企業に流れることになったのだ。これですっかり凹んでしまい新明和などの旧軍事産業系会社を受ける気力を無くしてしまった。当時はそれくらい就職における学部差別が公然とあったのである。

ある程度の予想通り、順調(?)な滑り出しの就職活動だったが、とある製鉄会社を受けたときに転機は訪れたのである。それはオタクという自分の過去についてのことだ。
就職面談でなんと!戦車の話をする

当時はまったく日のあたらなかったが、現在は往時の勢いを取り戻している某製鉄会社の面接を受けた時だ。何の話か忘れたが、ミリタリーな話になった。三菱で戦車や航空機を作る夢を絶たれた(?)僕はもうやけくそで「もう思ったこと全部いうたる」的なノリになっていた。そこで面接官に話をしたのは「自分は戦車や艦艇模型を作っていて気づいた。民族の特徴はハードウェアに現れる。すなわち民族の根底に流れる認識しにくい美意識や観念などの精神は作り出すものに必ず現れる」という話。そこでソ連の戦車やドイツの戦車の特徴をベースに民族性の話をしたのである。たまたまか?どうか分からなかったがえらくその話がウケたようで最終の面談まで行ってしまった。結局最後には落っこちたが、僕はそのとき「無理に演じてもしんどいなあ、思ったこと言おう」と妙に素直になれたのである。もう顔は忘れてしまったが、あの面接をしてくれた人とはもう一度会いたいものだ。

余談だが、かわぐちかいじの漫画「ジパング」のシーンの中でタイムスリップしたイージス艦「みらい」に救助された草加拓海少佐が「この船(イージス艦)は日本とは別の精神から作り出されたものだ」と語る箇所がある。これを読んでああ、おんなじこと言ってるよと妙な感動を覚えた。

当時はリクルータによる青田狩りがまだまだ盛んであり、最初の面接官はOBであることがほとんどだった。だが、初めてあったOBの会社に「第一志望です」なんて見え透いたうそを言うのもいやだったし、素直に「第二志望」ですと言ったほうが話しは進むことが次第に分かってきた。結局今働いているIT系の会社も当時は「第二志望の会社」である。自分に素直になったほうがいいという大事なメッセージをこのとき感じていたはずであるが、しかしミリタリーオタクであることを前面に出すことはその後一回もしなかった。ミリタリーオタクであるという事実の隠蔽は社会人になっても続くのであるが、この時の経験がミリタリーオタクカミングアウトの小さな契機になっていたのは間違いない。

    
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